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人手不足でも店舗を増やすには|多店舗化を支える省人化・採用・定着の仕組み

監修: 山田 文彦(元ベンチャー・リンク幹部)読了目安 約 12
人手不足でも店舗を増やすには|多店舗化を支える省人化・採用・定着の仕組み

※記事内で紹介している事例は、私たちが支援してきた実例や公開情報をもとに特定企業名を伏せて執筆しています。

「人を採りたくても、採れない」。最近、拡大のご相談をいただくと、ほぼ必ずこの話になります。次の一軒はいけそう、出したい立地もある。でも、いまある店ですらシフトはぎりぎり。この状態で増やして、現場は本当に回るのか? そう感じてアクセルから足が離れてしまう。それは弱気ではなく、経営者として正しい危機感だと思います。

実際、人手不足はもう「気合でなんとかなる」段階を超えています。帝国データバンクによると、人手が足りずに倒産する「人手不足倒産」は2025年度に441件と、3年連続で過去最多。飲食店だけでも21件と、業種別で過去最多を更新しました。飲食店の人手不足そのものは、少しずつ和らぐ動きもあります。非正社員の不足割合は、74.8%(2024年4月)、65.3%(2025年4月)、59.1%(2026年4月)と下がってきました。それでも、まだ6割近い。とても「楽になった」とは言えない水準です。

それでも、この逆風のなかで着実に店舗を増やしている会社はあります。彼らが持っているのは、特別な採用ルートでも、店長の超人的な頑張りでもありません。「人は採れないし、辞める」を前提に組み立てられた、冷静な“仕組み”です。この記事では、ベンチャー・リンク出身のコンサルタント・山田文彦の監修のもと、人手不足のまま増やすと何が起きるのか、増やせる会社は何を仕込んでいるのか、そして「今、増やしていいか」の見極めまで、できるだけ現場目線で整理します。一緒に考えていきましょう。

なぜ「人手不足のまま」増やすと、店は静かに崩れるのか

多店舗化での失敗は、ある日いきなり来るわけではありません。人の問題が水面下で静かに連鎖して、気づいたときには止まらなくなっている。よくあるのが、次の3つの流れです。

応募者の少なさに直面し、採用に頭を悩ませる店舗オーナーのイラスト

ひとつめは、採用コストが、利益を静かに溶かしていくこと。採れない時代に頭数をそろえようとすれば、求人広告費はふくらみ続けます。しかも教育が追いつかず、せっかく入った新人が数ヶ月で辞めてしまう。すると「採る、辞める、また採る」のループで、本部のお金と時間が削られていきます。出店のたびに、この穴が一つずつ増えていくわけです。

ふたつめが、「5店舗の壁」の次にやってくる「10店舗の壁」。別の記事店舗拡大の8割が失敗する理由で、社長一人の目が届く限界としての「5店舗の壁」に触れました。その次に来るのが、この壁です。10店を超えると、社長だけでなく右腕クラスの目も、もう全店には届きません。ここで多くの本部が、優秀な店長をろくな準備もないままSV(スーパーバイザー)に引き上げてしまう。でも、プレイヤーとして優秀なことと、人を支えるマネジメントは別の技術です。準備のないSVにできるのは、店を回って「ルール通りか」を見る“チェック係”の仕事まで。売上を一緒に伸ばす相談相手にはなれず、現場の店長との間にすき間が生まれます。

みっつめは、最後に、いちばん優秀な店長の離脱で一気に崩れること。新人は辞める、SVは頼れない。そのしわ寄せは、結局いちばん頼れる店長に集まります。穴埋めのシフトに追われて消耗し、ある日ふっと「辞めます」と言って去っていく。その1店の崩れが、エリア全体のシフトに連鎖していく。これが、急ぎすぎた拡大がたどる、いちばん典型的な流れです。

共通しているのは、どこかで「人の頑張り」に頼りきっていること。だからこそ、増やす前に“人頼み”から“仕組み頼み”へ寄せておく。もちろん、それだけですべてが解決するわけではありません。それでも、ここを先に手当てしておくほど、人手不足による失速リスクはぐっと下げられます。

人手不足でも増やせる会社が、先に仕込んでいる4つの仕組み

増やせている会社は、出発点が違います。「人をなんとか集める」ではなく、「少ない人数で、しかも素人でも回る形を先に作る」。商売そのものを、そこへ寄せていきます。柱は大きく4つです。

スタッフがタブレットの動画マニュアルで学び、少人数でも店が回る様子を見守る店舗オーナーのイラスト

① 「職人技」を、意図的に手放す(単純化・標準化)

「経験者を採れれば…」と考えた時点で、採用難の時代では分が悪くなります。未経験の人が短い研修で一定の品質を出せるところまで、オペレーションを削ぎ落としていく。たとえば調理なら「包丁を使うのはこの工程だけ」というところまで仕込みを工夫し、プレカット食材や自動調理機に投資する。業務を単純化・標準化するのは、現場を楽にするためというより、「人が採れない」という最大のリスクに対する保険なんです。

② 教育を「人」から「仕組み」に移す(動画化)

ベテラン店長が新人にマンツーマンで教える。一見、美しく見えますが、多店舗ではむしろ危うい。教える人の上手い下手で品質がぶれ、店長の貴重な時間も奪われるからです。基本動作は動画にして、スマホでいつでも学べる形にする。すると店長の役割は、「教えること」から「動画どおりにできているかを見て、承認すること」へ変わります。

ただ、ここで多くの会社がつまずきます。「動画マニュアルにしましょう」は簡単に言えても、「誰が、いつ、どうやって作るのか」が現実の壁だからです。だからこそ、最初から完璧を目指さないこと。ある数百店規模のチェーンでは、市販のアクションカメラやスマホを使って、現場のチームが「1日1本・3分のショート動画」を手作りで撮ってクラウドに上げていく、というやり方で800本以上をそろえました。いまは初期費用ゼロで使える学習システムも増えています。立派な制作会社に外注しなくても、まずは手元の道具で“動くマニュアル”を少しずつ貯めていく。これが、現実的な第一歩です。

③ アルバイトを「辞めさせない」仕組みをつくる(承認)

定着のために時給を上げ続けるのは、体力のある大手の戦い方です。中小・中堅に効くのは、「承認」を仕組みにすること。たとえば、お客様アンケートと連動させて「今月いちばん輝いていたスタッフ」を可視化する。店長から頭ごなしに言われるより、お客様からの「ありがとう」のほうが、すっと心に届きます。さらに、年に一度、アルバイトを集めて表彰する場をつくり、経営陣が直接スポットライトを当てる。「ここなら認められる、成長できる」と感じられる場所からは、人はそう簡単には辞めません。

④ 採用そのものを、店長の片手間にしない

求人媒体の選定も、応募者への一次対応も、面接の日程調整も、現場の店長に片手間でやらせないこと。店長の本業は店の品質を守ることであって、採用のプロではないからです。これらは本部に集約するか、採用代行に任せてしまう。店長は、整えられた最終面接にだけ出ればいい。そういう状態をつくります。

4つに共通するのは、やっぱり「特定の誰かの頑張りに頼らない」こと。ここを先に仕込めている会社は、人手不足の逆風でも、ちゃんと前に進めます。

仕組みづくりに必要な「覚悟」と進め方

ここまで読んで、「理屈はわかる。でも、その仕組みを作る余力がないんだ」と感じた方。そのとおりだと思います。いちばん難しいのは、仕組みの中身そのものより、「誰が、いつ、何を犠牲にして作るのか」という現実のほうです。きれいごとで終わらせたくないので、正直に踏み込んでおきます。

片手間では、絶対に終わりません。 標準化やマニュアル作りは、店長たちに「営業の合間にやっておいて」で進む仕事ではなく、ほぼ確実に頓挫します。現実的なのは、社長をトップに3〜4人の小さな「本部立ち上げチーム」を組むこと。とくにマニュアルと研修の実務は、現場をいちばん知っている優秀な店長クラスを、思い切って専任(将来のSV候補)に引き上げて任せる。つまり、いちばん戦力になる店長を、一時的に現場から抜く覚悟がいる、ということです。

期間も、それなりにかかります。 マニュアル整備と研修づくりは、腰を据えて取り組んでも、通常6〜8ヶ月はかかります。裏を返せば、思い立ってすぐ出店、には間に合わない。だから仕組みづくりは、「出店の前」に始めておく必要があります。進め方は、ざっくり4ステップです。①教えるべき業務を全部洗い出して目次(体系図)を作る、②店舗ごとにバラバラなやり方を「これが自社の正解」と1つに決める、③動き(調理・接客)は動画に、背景や理由はテキストに落とす、④「誰がいつ更新するか」の改訂ルールを先に決める。マニュアルに「完成」はなく、更新され続けて初めて生きるからです。

お金は、かけすぎないこと。 ここで逆に注意したいのが、過剰投資です。数店舗の段階で「将来100店」を見込んで数千万円のシステムを入れてしまうと、計画が少し狂っただけで本部の資金が先に尽きます。小さく始めて、店が増えるのに合わせて投資を足していく。これが鉄則です。

つまずきどころも、あらかじめ知っておくと避けられます。「文字ばかりで探しづらく、結局使われない」「ベテランの“今さら”という抵抗で広がらない」「一度作って満足し、陳腐化する」「細かく縛りすぎて、現場が自分で考えなくなる」。この4つは本当によく見ます。標準化は“ガチガチの命令”ではなく“基本の指針”ととらえ、現場が状況に応じて判断できる余白を残しておくのがコツです。

そして、いちばん大事な問いがこれです。標準化が整っていないなら、出店を一時止めてでも、本部づくりを先に終わらせられるか。 仕組みが未完成のまま店だけ増やすのは、品質のばらつきをチェーン全体に広げ、いずれブランドそのものを傷つけます。急がば回れ。足元の仕組みを固める時間は、遠回りに見えて、結局いちばんの近道になります。

それでも「今、増やしていいか」を見極める3つの問い

ここまでの仕組みと覚悟を踏まえて、最後に。アクセルを踏む前に、既存店で次の3つを正直に確かめてみてください。1つでも「まだだな」と思うなら、それは「やめろ」ではなく「ここを整えてから」の合図です。

チェックリストを手に、次の店舗へ拡大してよいかを見極める店舗オーナーのイラスト

  1. 異なる立地・異なる店長で、黒字を出せているか(再現性) 1号店の繁盛は、立地のよさや社長のカリスマという「たまたま」かもしれません。条件の違う2号店・3号店を、社長以外の人が回して利益が出ているか。目安は、直営3店舗を2年ほど続けられていること。これが再現性の最低ラインです。

  2. 仕組みづくりの「専任」を、置けているか 「マニュアルは店長が合間に作ります」では、まず頓挫します。本部立ち上げに専念できる人(または外部の力)を確保できているか。ここが、絵に描いた餅と実行とを分ける線になります。

  3. 本部コストを引いても、店舗にちゃんと利益が残るか(収益力) 多店舗化やFC化では、店舗が本部経費やロイヤリティを負担します。それを引いた後でも店舗側にしっかり利益が残り、3年以内に投資を回収できる収益力があるか。ここが弱いと、増やすほど苦しくなります。

3つがそろっていれば、人手不足の今でも、拡大は十分にねらえます。そして「直営で増やすのか、FC化するのか、他ブランドに加盟するのか」という“道”の選び方は、直営拡大・自社FC化・他ブランド加盟|3つの道の違いと選び方で詳しく整理しています。

まとめ

  • 人手不足倒産は過去最多。それでも、この逆風で増やせている会社は「根性」ではなく「仕組み」で乗り越えている
  • 人手不足のまま増やすと、採用コストの流出 → SVが育たない「10店舗の壁」 → 優秀な店長の離脱、と静かに連鎖する
  • 仕組みの柱は4つ(省人化・教育の自動化・承認による定着・採用の仕組み化)。ただし作るには半年〜8ヶ月と「専任を置く覚悟」がいる
  • 増やす前に確かめたいのは、再現性・専任体制・収益力の3つ

人手不足は、いつか終わる一時的な波ではありません。働く世代が減っていく以上、これはこれからの「前提条件」です。だからこそ、拡大の判断は「なんとかなる」でも「人がいないから諦める」でもなく、求人費の高騰・省人化への投資・本部にかかる固定費まで織り込んだうえで、「今、どの道で、どこまで増やせるのか」を数字で見立てることが欠かせません。

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※ 本記事で紹介している統計は、執筆時点で公表されている最新の調査に基づいています。最新の数値は各調査の原典をご確認ください。

参考人手不足倒産の動向調査(2025年度・帝国データバンク)人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月・帝国データバンク)

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この記事の監修者

本記事は、ベンチャー・リンク出身のフランチャイズコンサルタント 山田・土田の監修で作成しています。

山田 文彦 - 株式会社ディーノシステム 代表取締役 / 元ベンチャー・リンク

株式会社ディーノシステム

代表取締役

山田 文彦

元ベンチャー・リンク幹部。フランチャイズやライセンスビジネスのパッケージ構築から加盟店開発、経営指導まで、チェーン全体の経営サポートを牽引。飲食・サービス・物販など幅広い業態の多店舗展開を支援。

土田 俊 - 株式会社ディーノシステム FCコンサルタント / 元ベンチャー・リンク

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FCコンサルタント

土田 俊

元ベンチャー・リンク。現在も良きフランチャイズビジネスを探し求め、FC開発を全国で行う数少ないFC開発のプロフェッショナル。全国各地のマルチ・メガフランチャイジーとのネットワークを持つ。

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